小学校高学年向け:ロボットで「協力する力」と「表現する力」を育む協働学習ワークショップ
ロボットプログラミングで育む「協力」と「表現」の力
近年、小学校におけるプログラミング教育が必修化され、先生方は単に技術を教えるだけでなく、子どもたちの「考える力」や「問題解決能力」をどのように育むかについて日々模索されていることと思います。特に高学年になると、知識の習得に加え、友だちと協力して一つの目標に向かう「協働する力」や、自分の考えや成果を相手に伝える「表現する力」も重要な学習要素となります。
しかし、「どうすれば子どもたちが主体的にチームで学べるのか」「発表の場をどのように設定すれば良いのか」といった疑問や不安をお持ちの先生もいらっしゃるかもしれません。本記事では、ロボットプログラミングが、これらの力を育むための非常に有効なツールであることをご紹介し、すぐに授業で実践できる具体的なワークショップの指導案と、実践のポイントを解説いたします。
ロボットを使った協働学習と表現活動を通じて、子どもたちが互いに学び合い、創造性を発揮する喜びを体験できるよう、丁寧にご案内いたします。
ワークショップの概要
このワークショップは、小学校高学年(5年生、6年生)を対象とし、チームで協力しながらロボットを動かすプログラミングを行い、その成果や工夫した点を発表することを目指します。
1. ワークショップの目的
- チームで協力し、話し合いながら課題解決に取り組む力を養います。
- 考えたことをロボットの動きやプログラミングで具体的に表現する力を育みます。
- 自身のアイデアやチームの成果を相手に分かりやすく伝える力を高めます。
2. 使用教材例
グループで扱いやすく、表現活動につなげやすいロボット教材が適しています。
- mBot(エムボット): ブロックプログラミングで操作でき、様々なセンサーやモーターを組み合わせて、多様な動きを実現できます。拡張性も高く、高学年の探究心を刺激します。
- toio(トイオ): 直感的な操作で、キューブ型のロボットを動かし、工夫次第で物語を作ったり、ゲームを開発したりと、表現の幅が広い点が特徴です。
- KOOV(クーブ): ブロックを組み合わせてロボットを形作り、プログラミングで動かします。造形とプログラミングの両面から創造性を刺激します。
3. 推奨される実施時間
準備から発表までを含め、合計で90分授業2〜3コマ程度を推奨します。子どもの習熟度やアイデア出しの進捗状況に応じて、柔軟に調整してください。
4. 準備物リスト
- 上記のようなロボット教材(チーム数分)
- タブレット端末またはパソコン(ロボットのプログラミングに使用)
- 発表用の模造紙、ホワイトボード、カラーペンなど
- 作品を展示・発表するスペース(教室内の机や体育館など)
指導案:ロボットで「協力と表現」を学ぶワークショップ
1. 学習目標
- 知識・技能:
- ロボットの基本的なプログラミング方法を理解し、操作できます。
- センサーやモーターの役割を理解し、目的に応じて活用できます。
- 思考力・判断力・表現力:
- チームで協力して課題を分析し、解決策をプログラミングで具体化できます。
- プログラミングの過程で発生する問題(バグ)を発見し、解決策を検討できます。
- 自身のアイデアやチームの成果を、口頭やポスターなどで分かりやすく表現できます。
- 学びに向かう力・人間性:
- チームメンバーの意見を尊重し、建設的に話し合いながら活動できます。
- 困難な課題にも諦めずに試行錯誤を続けることができます。
2. 単元の位置づけと関連教科
総合的な学習の時間、図画工作、国語、理科など、多様な教科・領域と連携が可能です。 * 総合的な学習の時間: 地域課題の解決、未来の生活、防災など、テーマに沿ったロボット開発。 * 図画工作: ロボットの造形、発表資料のデザイン。 * 国語: 発表資料の作成、プレゼンテーション。 * 理科: センサーの仕組み、力学的な動き。
3. 活動内容
導入(20分)
- アイスブレイクと課題提示:
- 「もし、君たちがロボットを作れるとしたら、どんなロボットを作りたいですか」といった問いかけから導入します。
- 本日のテーマとして、「チームで協力して、ある役割を果たすロボットをプログラミングし、その工夫を発表しよう」という課題を提示します。例えば、「みんなで協力して、〇〇を解決するロボットを作ろう」といった具体的なテーマを設定しても良いでしょう。
- チーム分けと役割分担の検討:
- 4〜5人程度のチームを組みます。
- チーム内で、リーダー、プログラマー、デザイナー(ロボットの装飾や発表資料作成)、プレゼンターなど、それぞれの役割について話し合い、検討する時間を設けます。役割は固定せず、必要に応じて交代しても良いことを伝えます。
展開1:アイデア出しと設計(40分)
- チームでの話し合い:
- チームごとに、解決したい課題や、作りたいロボットの具体的な役割について話し合います。
- 例えば、「遠くのものを運ぶロボット」「ゴミを分別するロボット」「ダンスを披露するロボット」など、自由な発想を促します。
- プログラミングの流れやロボットの動きの設計:
- 話し合ったアイデアに基づき、ロボットがどのように動くか、どのような機能が必要かを図や絵、簡単な文章でまとめます。
- この段階で、プログラミングのイメージを具体化することが目的です。
展開2:プログラミングと試行錯誤(90分×1〜2コマ)
- ロボットの組み立てとプログラミング:
- 各チームは、役割分担に基づいて実際にロボットを組み立て、設計した内容に沿ってプログラミングを開始します。
- 「プログラミング」とは、ロボットに命令を与えること、あるいはその命令のまとまりを作る作業を指します。
- 試行錯誤とデバッグ:
- プログラミングした通りにロボットが動かない場合、「デバッグ」(プログラムの間違いを見つけて修正すること)が必要となります。
- チーム内で意見を出し合い、協力しながら試行錯誤を繰り返す時間を十分に確保します。先生は、各チームの進捗状況を確認し、必要に応じてヒントを与えたり、議論を促したりします。
- 進捗状況の共有:
- 活動の途中や終わりに、各チームの進捗状況、課題、工夫した点などを全体で簡単に共有する時間を設けることで、他のチームからの刺激や学びを促します。
展開3:発表準備(40分)
- 発表内容の整理:
- 作成したロボットの役割、プログラミングで工夫した点、チームで協力した内容、難しかった点とその解決方法などを模造紙やホワイトボードにまとめます。
- 発表練習:
- 発表時間や内容の構成を意識し、チーム内で発表の練習を行います。
- ロボットの実演を交えながら、分かりやすく伝えるための工夫を検討します。
まとめ:発表会と振り返り(60分)
- 発表会:
- 各チームが、作成したロボットを実演しながら、工夫した点やメッセージを発表します。
- 他のチームからの質疑応答の時間も設けることで、さらに理解を深めます。
- 振り返り:
- 発表後、チーム内や全体で「チームで協力できた点」「難しかった点」「どのような工夫をしたか」「発表を通じて何を感じたか」などを振り返ります。
- 先生は、子どもたちの頑張りや気づきを肯定的に評価し、次の学びへの意欲を引き出します。
4. 評価のポイント
- 協働性: チーム内で意見を出し合い、役割分担し、協力して課題解決に取り組んでいるか。
- 創造性・表現力: アイデアを具体的にロボットの動きやプログラミングで表現できているか。
- 伝達力: 自身のアイデアやチームの成果を、分かりやすく相手に伝えられているか。
- 問題解決能力: 課題に直面した際に、試行錯誤しながら解決策を探求しているか。
生徒の反応と成功事例
このワークショップを実施した際、子どもたちからは以下のような前向きな反応が見られました。
- 「最初はロボットが思うように動かなくて大変だったけど、みんなで相談してプログラムを直したら成功したから嬉しかった」
- 「友達のアイデアに刺激されて、もっと色々な動きをさせたいと思った」
- 「自分が考えたロボットが実際に動いて、みんなの前で発表できたのが楽しかった」
- 「役割分担があったから、自分もチームの一員として頑張ろうと思えた」
実際に、あるクラスでは、地域のごみ拾いをテーマに「ごみを自動で分別するロボット」を開発したチームがありました。最初はプログラムが複雑で動かなかったものの、チームメンバーが互いに役割を交代しながら試行錯誤を繰り返し、最終的にはごみの色を判別して分別するロボットを完成させ、発表会では大きな拍手を受けていました。このように、子どもたちはロボットプログラミングを通じて、技術的な知識だけでなく、協調性や論理的思考力、そして自信を育むことができます。
トラブルシューティング
ワークショップ中に発生しがちなトラブルと、その対応策をご紹介します。
- ロボットが動かない、思い通りにならない:
- 対応策: まず、プログラミング内容を一つ一つ丁寧に確認するよう促します。「デバッグ」の練習にもなります。電源が入っているか、バッテリーは十分に充電されているか、配線が正しく接続されているかなども確認させます。それでも解決しない場合は、先生が介入し、ヒントを与えますが、すぐに答えは教えず、子どもたち自身で解決策を見つける手助けを心がけます。
- チーム内で意見がまとまらない、特定の児童に作業が偏る:
- 対応策: 先生がファシリテーターとして介入し、全ての児童が意見を出しやすい雰囲気を作ります。役割を定期的に交代させる、または「全員で一度プログラミングを体験する時間」を設けるなどの工夫も有効です。意見が対立した際には、どちらの意見も尊重し、試行してみてから比較検討するという方法を提案することも有効です。
- 時間が足りなくなる:
- 対応策: 事前に設定したゴールを柔軟に見直します。完璧を目指すのではなく、「どこまでできたらOKとするか」の基準を共有し、重要度の高い部分に集中するよう促します。次回に持ち越す可能性も考慮し、無理のない計画を立てることが大切です。
まとめ
ロボットプログラミングは、小学校の高学年の子どもたちにとって、単なる技術学習に留まらない豊かな学びの機会を提供します。チームで協力し、試行錯誤しながら一つのものを作り上げる過程で、「協働する力」「問題解決能力」を育み、そしてその成果を他者に分かりやすく伝える「表現する力」を磨くことができます。
先生方は、子どもたちが自ら考え、行動し、互いに学び合う場をデザインする重要な役割を担っています。本記事でご紹介したワークショップの指導案が、先生方の授業実践の一助となり、子どもたちの可能性を広げるきっかけとなれば幸いです。まずは、小さな一歩からでも、ぜひロボットを活用した協働学習に挑戦してみてください。子どもたちの予想を超える創造力と成長に出会えることでしょう。